毎年年の初めに開催される展示会CESが2020年も1月7日から10日にかけてラスベガスで開催されました。去年までは、コンシューマーエレクトロニクスショーと呼ばれていましたが、今年から「CES」が正式名称として使われました。家電見本市から始まったコンシューマエレクトロニクスショーですが、展示内容が家電やコンシューマ製品だけではなく、車、3Dプリンタ、コンテンツとエンターテイメント、人工知能、ドローン、拡張現実、仮想現実、スマートホームなど幅広くなったことが背景としてあります。
今年の統計データはまだ公開されていませんが、前年度と同じ展示企業数4,500、参加者18万人以上だったと推測します。
展示会場は、メイン会場のラスベガスコンベンションセンター(Tech East)、サブ会場のSands Expo(Tech West)とAriaホテルの展示会場(Tech South)の3つに分かれます。
出典: CESウェブサイト
「Tech East」は、エレクトロニクス、自動車、AR/VR、ゲーム、ホームシアター、AI/ロボティクス、ドローン、無線、3Dプリンティングなどで、グーグルもこのエリアです。
「Tech West」は、健康、医療、フィットネス、スマートホーム、ワイヤレス機器などとアマゾンやベンチャー企業が集まるEureka Parkもこのエリアです。
「Tech South」は、広告、コンテンツ、マーケティング、エンターテイメントやネットワーキングイベント、展示会や接待用特別室などです。
デジタルトランスフォーメーションの流れから、今までデジタルに未対応だった物がデジタル化した製品が数多く展示され、また展示エリアも広がった印象です。その一つがスマートホーム分野です。
今年のCESでのスマートホーム分野は、アマゾンAlexaやグーグルAssistantに対応したデジタル製品が数多く展示され、ほとんどのブースでどちらかもしくは両社のロゴをブースに表示していた。
アマゾンAlexa
グーグルAssistant
スマートホームのユーザインタフェースで使用される可能性が最も高いのが音声で、そのプラットフォームを提供しているマーケットリーダーがアマゾンとグーグルだ。それに対応した製品がスマートホーム対応製品と言っても過言ではない状況だ。
Statista社の2018年と2019年における音声アシスタントをサポートしているスマートホームデバイス数の調査によると2019年5月時点で合計9万デバイスで、約66%がアマゾンAlexaで、約33%がグーグルAssistantで両社だけでほぼ100%だ。
2018年/2019年 音声アシスタントをサポートするスマートホームデバイス合計数
出典: Statistaウェブサイト
一方音声アシスタントの機能が利用できるデバイス数は、グーグルが10億台でアマゾンの1億台と比べて、大差がある。理由は、グーグルがアンドロイドデバイスを提供しているからだ。
スマートホームから少しそれるが、アマゾンとグーグルは自動車分野におけるプラットフォームでも主導権を握るための活動をしており、ホームからモビリティまでシングルプラットフォームで提供することを考えている。
アマゾン 車ダッシュボード
グーグル 車への対応
スマートホーム対応のデバイスが増えてきたことから、グーグルのブースでは、スマートデバイスをセットアップするための手順についても紹介されていた。
展示は、電球の例であるが、スマートデバイス対応の機器を購入し、数ステップでGoogleのアプリで操作が可能となる。
グーグル スマートデバイスのセットアップ
スマートデバイスを購入した後に最初にぶつかるのが接続方法の問題であるが、スマートデバイス導入のハードルが低いことを促すのが狙いだ。
CESの展示場では、アマゾンAlexaやグーグルAssistantに対応した製品が全てでは無いがスマートホーム製品が幅広く展示されていたので、次章で紹介する。
スマートホームは、IoTやAIなどの技術を駆使して、住む人にとって安全・安心で快適な暮らしを実現する住宅のことである。住宅に関連する製品を提供していたベンダーで今までデジタル未対応だった製品がデジタル化した物からスマートホーム製品を制御するプラットフォームを提供するベンダーまで様々な物がCESでは展示された。CESで全ての製品を確認できた訳ではないが、展示の中でも特徴的でデジタル化対応したドア、トイレ、歯ブラシ、ベッド、マッサージチェア、空気洗浄機とそれを制御するプラットフォームを紹介する。
ringの展示
スマートドアで有名なのが、2018年にアマゾンが買収したringだ。アマゾンのメインサービスであるリテール事業の置き引き防止を向上させることが目的で買収された企業だ。ringの有名な製品がDoorbellで玄関のドアの外に誰かが来るとユーザに通知が届き、アプリを通じて訪問者と直接対面せずにDoorbellを通して話すことができる。万が一外出中でも訪問者に対してあたかも家の中に居るように振る舞えるため、セキュリティの向上にもつながる。
CESでは、スマートドアと合わせてスマート照明デバイスのラインナップを拡大し、展示した。スマート照明は、消費者のライフスタイルに合わせてオン、オフするスケジューリングが可能だ。これによりセキュリティを向上させることもできる。
kwiksetのスマートドアロック
出典: Digital Trendsウェブサイト
その他スマートドアを提供する企業で注目したいのが、kwiksetとAugustだ。
kwiksetは、1946年に創業し、主に鍵などを提供する会社だったが、既存のビジネスをデジタル化し、現在ではスマートドアも提供する。
CESでは、指紋リーダを搭載したスマートドアロックを展示した。50の異なるユーザプロファイルと最大100の指紋を保存できる。またアマゾンAlexaとグーグルAssistantにも対応予定で、アプリからも操作が可能となる。
Augustのスマートドアロック
出典: Digital Trendsウェブサイト
Augustは、2012年に創業し、無線LANでのドアの開錠とカメラのソリューションを提供する。
CESでは、従来のスマートドアロックより45%小さくまたWiFiが組み込まれたものを展示した。従来は、WiFi接続するためのブリッジが必要だったが、それを改善した物だ。
スマートトイレで注目したいのが、TOTOとKohlerだ。
TOTOスマートトイレ
TOTOは日本でも有名なトイレメーカで、バス周りの製品を提供する。日本のトイレは既に高機能なので、それと比べると大きな違いはほとんど無いが、高機能トイレを見たことが無い外国人には、スマートトイレとして見えるのだろう。
CESで展示されていたものは、近づくと自動的に開き、離れた時に閉じる。便座が温かく、温水洗浄を提供する。また自己洗浄機能を備え排便した後の痕跡を残さない。
Kohlerスマートトイレ
Kohlerは、1873年に創業し、バス周りの製品を提供する会社だ。2018年のCESでKohler Connectを発表し、それ以降バス関係の製品をデジタル化したものを提供する。
CESでは、インテリジェントトイレを展示した。TOTOと同様に便座が温かく、洗浄機能を提供するが、それに加えてBluetoothスピーカ、カラーライト、アマゾンAlexaを内蔵する。トイレに話しかけ、天気、ニュース、交通、その他の情報を要求し、取得することができる。これによりトイレ中でも有効に時間を使うことができる。
口腔衛生ブランドの大手であるOral-BとColgateは、CESでiPhoneに接続して使用する新しい電動歯ブラシを発表した。
Oral-Bは、1950年に創業し、口腔製品を提供する。
CESでは、摩擦の無い磁気ドライブを独自に備え、毛先にエネルギーをより効率的に分配して、より滑らかで静かなブラッシングを提供する。Oral-Bのアプリで2分間のブラッシングを通じて、ユーザをガイドし可能な限り最高のクリーニングを提供する。最大7つのパーソナライズされたブラッシングモードも提供する。2020年8月から販売開始予定だ。
Oral-B スマート歯ブラシ
Oral-B アプリ
Colgateは、1806年に創業し、消費者向けの家庭用品、ヘルスケア用品、パーソナルケア用品などを提供する。Colgateは、口腔製品のブランド名だ。
CESでは、口の中のプラークを検出してブラッシング中に除去できる光学センサーテクノロジーを特徴とする歯ブラシを展示した。口内に堆積物が見つかった時に青く点滅し、その領域がきれいになると白く点滅する。Oral-Bと同様にBluetooth経由でアプリと接続し、ブラッシングをカスタマイズできる。今年の後半に利用可能になる予定だ。
Colgate スマート歯ブラシ
Colgate 歯ブラシ青く点滅
Sleep Number Climate360スマートベッド
今年のCESで温度技術でのベストオブイノベーションを受賞したのがSleep Numberが発表したClimate360 Smart Bedだ。Sleep Numberは、1987年に創業しマットレス関係の製品を提供する。
CESでは、温度技術を使用して自動で硬さを調整できるパーソナライズされたベッドを展示した。
アメリカの疾病管理予防管理センターによると、大人の3人に1人が十分な睡眠をとっていないと主張する。このベッドにより100時間/年の睡眠時間の向上することができ、睡眠不足に苦しむ人々を助けることができる。販売価格は7,999ドルで、2021年以降に利用可能になる予定だ。
Sleep Number Climate360スマートベッド
今年のCESでは、会場の至る所でマッサージチェアを展示している企業が多かった印象だ。その中で最も印象に残ったのがランボルギーニのような形をした豪華なマッサージチェアを展示したBodyfriendだ。Bodyfriendは、2007年に韓国で創業し、マッサージチェア、マットレス、浄水器など総合ヘルスケア企業だ。
ランボルギーニをモデルに作られたこの椅子は、スタートボタンまで本物のイグニッションを模倣した音を立てる。
見た目の豪華さだけではなく、機能面でも優れている。痛みのポイントに合わせて完全にカスタマイズすることができ、またワイヤレスリモコンでの操作も可能だ。販売価格は29,999ドルで、既に購入することが可能だ。
Cowayのスマート空気清浄機
スマート空気洗浄機で注目したいのがCowayだ。Cowayは、1989年に韓国で創業し、浄水器、空気清浄機などの家庭用健康器具から化粧品までを提供する。
CESでは、アマゾンAlexaに対応した空気清浄機を展示し、空気洗浄機のフィルターを交換する時に、Alexakらの通知を受け取ることができる。また交換フィルタをAmazonで自動的に再注文することもできる。アマゾンAlexaとグーグルAssistantで空気清浄機を制御できる機能は、サポート済でそれに機能追加された形だ。
Tuyaの展示
最後に取り上げるのがスマートプラットフォームを提供するTuyaだ。Tuyaは、2014年に中国で創業し、IoTのプラットフォームを提供する。
CESでは、50のグローバルブランドの200を超えるTuya製品の開発プラットフォームとデモンストレーションを展示した。
開発プラットフォームは、開発者がIoTプロトタイプを1時間以内に開発することができるオープンソースツールだ。
デモンストレーションは、アマゾンAlexaやグーグルAssistantに対応したスマートバスルームミラー、家電の健康状態を監視するスマートミラー、Bluetooth指紋スマートロックなどを展示した。
スマートデバイスが増えてくると相互接続を考慮したプラットフォームが重要となり、Tuyaのプラットフォームを利用する物が増えてくると考える。
CES2020では、住宅に関連する製品でデジタル化したスマートホーム製品が数多く展示されており、そのほとんどがアマゾンAlexaとグーグルAssistant対応をアピールしていた。スマートデバイスは、アマゾンAlexaやグーグルAssistantのアプリで制御できるのは既に一般的で、音声アシスタントで制御ができるスマートデバイスが今後は一般的となる。
スマートデバイスの数が今後も増えることは間違いないが、今後または既に直面している課題は、相互接続、インストレーション、セキュリティやプライバシーなどだ。それらを1社だけで解決することは無いため、エコシステムが重要となる。
2021年のCESではスマートデバイスの種類が増えてくると同時にこういった課題を解決する製品やオートメーションなどのよりスマートなソリューションを見ることができると予測する。